“結実芳醇”
愛子ちゃんが学校の行事で芋ほりに行ったそうで、
今年は破格の収穫となったらしく、
「ほら、ブッダさんが毎朝ジョギングしているコースの土手の下に、
地域管理の家庭菜園があるだろ? あすこなんだよね。」
「そそそ、そうなんですか。////////」
もしかしなくとも、
いつぞや ご近所の奥様から
“あなたも区画を借りて何か栽培してみては”と誘われたところ。
静子さんがお言いのようにさして遠くじゃあなく、
毎朝のジョギングで向かいがてら、
水やりや草引きなどなど世話もこなせる場所ながら。
起き抜けの頭で、イエスの寝顔とか観てからやって来て、
そんな何も考えなくていい片手間レベルの作業なんて手掛けたら、
育てているものへ どんなお惚気、もとえ慈愛がほとばしるか判らない。
そんな冷静な判断をした上で、
そこまではまだ自信がないとかどうとか言ってやんわり断ったのに、
結果、他で余計な愛情のおこぼれを振りまいていたんじゃなかろうかと、
微妙な心持ちとなってしまった釈迦牟尼様。
お裾分けだとごっそりいただいたさつまいもとともに、
スーパーから我が家へと戻って来たところ、
「そうなんだ。」
今日は松田ハイツ前の中通りのお掃除の日でもあったため、
売り出しを逃せぬブッダとは別行動。
お掃除を手掛けたそのまま、
お留守番をしていたイエスに“おかえりvv”と出迎えられ。
たくさん頂いたサツマイモの、
いきさつとそれから 素性というかお育ちというかまで、
ちょっと微妙な部分も合わせて説明してみたところ。
「よかったじゃない。」
相当案じていたブッダとは違って、
玻璃の双眸をほこりとたわめ、あっけらかんと笑った彼であり。
「え?」
自分はどうしよどうしよとドキドキしたっていうのに、
当事者じゃないからって安易に考えてないか? キミと。
不意打ちにあったように、
ともすればギョッとしちゃったブッダだったのと向かい合い。
口髭を乗っけた表情豊かな口許もそれは楽しそうにほころばせると、
「お断りしていたからそれだけで済んだんだし、
いい影響が出たのなら重畳ってものじゃない。」
「えっとぉ…。////////」
この夏もそれは暑かったし、
ゲリラ豪雨っぽい雨とか乱高下した気温とか、
やっぱり随分と落ち着かないお日和だったのに。
こぉんな立派なお芋がいっぱい育ったんだもの、
「私だったら“祝福せよ”とか叫んじゃうところだよ?」
勿論、おめでたいとか嬉 しいという意味だけど、と。
問題なんてないないなんてそれは朗らかに笑ってくれて、
こちらの考えすぎを宥めてくれる優しい彼であり。
しかも、
狭いキッチンスペースに向かい合ってたそのまま、
ぐいと顔を近づけて来ての声を低めると、
「そうまで私のこと考えてくれてたの?」
自覚があるから慌てちゃったんじゃないのなんて言いたげに、
ここで初めて斜に構え、薄く苦笑ったものだから。
「ば、ばかっ!//////////」
あまりのわざとらしさから、
からかわれていると判っているけど。
それでも そんなこと訊くなんて恥ずかしいよぉとばかり、
真っ赤っかになって勢いよく感情を吐き出したブッダへ、
あっはっはっと軽く笑い飛ばしてくれて。
“もうもう、キミってば。////////”
ただのご陽気な態度や物言いと見せかけて、でも、
理路整然と考える癖のある自分の杞憂を、
さりげなく蹴り飛ばしてくれる優しいキミ。
先々で苦しむ種になると判っているなら、今から捨てちゃえばいいという、
さすがは悟っておいでで思いきりがいいような、
泰然とした教えの“四聖諦”ではあるけど。
でもでも実は…
構えようによっちゃあマイナス思考に取っ捕まりかねないところもあるって、
“もしかして、ブッダってば自覚してないのかもね。”
本来は、迷いや執着心を断って、
「考えすぎない」とする“中道”を説いたはずなのに、
そんな本人が ついつい四聖諦や八正道のほうへこだわりすぎたりしちゃうほど、
“現世って誘惑が多すぎるってことなのかなぁ?”
と、これはイエスの胸中での呟きで。
悟りに目覚めたとはいえ、
それは清らかな心根をしたブッダは案外と世間の狭い人かもしれぬ。
生まれがいいとか育ちがいいとかいうのとは別枠、
世にはびこる邪悪の種類がまだまださほど細分化してはない時代の人なので、
人伝いに聞くだけでは把握が浅かった何やかにやに、
今の今、実際に触れちゃあ 知らず慄いてしまっているのかも?
“だとすれば、やっぱり私が守ってあげなきゃあっ。”
うんうんと深々と頷きながら、決意も新たにしたらしかったのが、
ちょっぴり人恋しさを誘うよな、冷たい風も吹き始めた、
いわゆる晩秋間近な昼のこと。
……で。
まだそれほど底冷えでもない今のうちは、
銭湯へは寝しなに行こうというモードの今日この頃。
夕飯の支度にとりかかったブッダから
ショウガがなかったと言われて買い物に出たイエスが、
ちょっと寄り道も差し挟んだとはいえ、
随分と陽が早く落ちるようになった中を元気に駆け駆け戻ってくれば。
「わあ、すごいすごい!」
六畳間の卓袱台には、今日もまたおかずの皿がいっぱい並んでおり。
プチトマトと並んでいる小さめの小判型コロッケは、
実は今日いただいたサツマイモで作ったもので、
ほんのり甘いし冷めても美味しいのだとか。
「あ、このチーズ焼きもサツマイモじゃない?」
本来ジャガイモで作るのがメジャーなそれ。
朝ごはんなど 二人分きっちりという少量なら、
濃いめに作ったカップスープでも代用出来るホワイトソースに、
さっと湯がいた半月切りの芋を並べ、彩りにブロッコリの茹でたのも添えて、
ピザ用チーズで覆ってオーブントースターへ。
お好みでハムを散らしてもよしの、
手軽に作れる温ったかメニューとしてはお馴染みだったが、
「サツマイモだと風味が変わって、また美味しい~vv」
カレーの香りがするのは、
パプリカとしめじと棒状のサツマイモをカレー風味で炒め煮にした
これまた変わり種メニューで、
「仕上げの汁がまだあるうちに
これを入れて掻き混ぜなって
静子さんから鶏の唐揚げ貰ってたので。」
今日は珍しくも肉もテーブルに上がってますと、
一応はよそ様の手柄なのでという注意をしたブッダ様。
そのままおしゃもじを手にすると、
「あとは、イエス待望のサツマイモご飯だよ?」
「わあ、何だなんだ、今日はごちそう尽くしじゃないvv」
うん、サツマイモは結構日持ちするから急がなくてもよかったんだけどねと、
ご馳走はともかく、芋尽くしになったのを照れたように
蓮の蕾みたいに可憐な表情で自分でも笑った如来様。
シメジとニンジン、薄揚げの入ったサツマイモご飯をよそいつつ、
そうと小声で言ってから、
「スマホであれやこれや検索してたら、
どれも美味しそうだなぁって思えちゃって。」
作れるかな、これはあれの応用かなぁって、
思うだけでは収まらなくなっちゃって。
甘く煮たのへ糖蜜にしょうがで風味付けした砂糖ダレを塗って乾かす
砂糖漬けもどきも作るねと、
それに要ったらしいショウガを
流し台の上にちらっと見やったブッダがやっと、
かきたまのお澄ましを椀につぎ分け、自分もお膳へ着いたのへ、
「ホントにすごいな、ブッダって。/////」
海賊がお宝を見回すように…ではたとえが物騒かもしれないが、
そのくらい魅力的だと様々なメニューへ感動しているらしいイエスであり。
いやいや、サツマイモばかりじゃないかと恐縮しかかったブッダより先に、
「実はね、さっきコンビニにもちょっと寄ってね。」
週刊雑誌の新しいのが出てないかと覗きに行ったんだけど、と
ほんの先程拾ったらしい話を持ち出して。
そこで逢った千代ちゃんが、ああえっと 一子ちゃんのお友達なんだけど、
「この時期はお母さんが同じものばかり作るからって閉口してて。」
「あ…。」
かぼちゃや小芋、サツマイモをたんと買ってしまい、
同じような献立ばかり続くのよねぇってぼやいてて。
「私も天ぷらと煮物と蒸したのと、
お汁ものに入れてる具しか思いつかなかったのに、」
こちら様はといや、閉口どころじゃあない、
わあと嬉しそうに輝いたまんまのお顔を上げて、
「そういや私、そんなこと一度も感じたことなかったなって。
そう思って帰ったらこれだものッ」
もうもうどれだけ、私を喜ばせたら気が済むのと、
ワクワクとお箸を手に取るヨシュア様なのへ、
“いやいや待ってよ、キミの方こそ。/////////”
上手だ美味しいと褒めてくれるが、
不慣れな身でおっかなびっくり作ったものばかりなのにと。
こちらはこちらで、やっぱり感動しきりなご様子で。
あ、サツマイモご飯、しめじの歯ごたえがまたいいvv
そ、そう? お代わりいっぱいあるからね。
うんっ!
実りの秋を堪能しつつ、別の豊穣の甘さへも、
胸がいっぱいなお二人だったようでございますvv
~Fine~ 15.10.30.
*学校や保育園の行事としての芋ほりはもちょっと早い時期ですよね。
ネタとしては10月前半と考えていたんですが、
何だかんだでズルズル遅れてしまいましたの。
しまったしまった。
めーるふぉーむvv 
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